壊死



「・・・が、死んだそうです。」


俯きながらそう言い渡す従者。


「そうか。処分しろ。」


はい、という返事が聞こえたが、立ち上がらない従者。
数秒の沈黙の後、重々しく口を開いた。


「殺されました」


次の言葉を待つ。


「相手は昨日の客・・・、体中に無数の切り傷・・・、最後は心臓に・・・」


そこまで言って言葉は途切れた。
途切れた続きは何なのか。この従者は何を伝えたいのか。


「・・・そうか。血が出たな。」


ピクリ、と身体を反応させる。


「森に捨てに行け。」


勢い良く上げた顔には、恐怖、そして絶望か。
先ほどまでとは違う血の気が引いた顔。







そして、何か弁明をしようと立ち上がると同時に、
扉を叩く音がした。




「すまないね、伯爵。貴方の大切なコレクションを壊してしまった。」


慣れた様子で入ってくるこの男とは何度か顔を合わせた事がある。


「・・・新しい奴隷か?」

「さすが察しが早い、でも新しい奴隷を買わせるために殺したわけじゃない。
 命乞いの言葉を聞くのが好きなんだ。
 もしかしたらそれが最期の言葉になるかもしれない、
 その瞬間に何を伝えたいのか、何が言いたいのか、
 彼らの人生はどんな色をしていたのか・・・、
 わからなくはないだろう?」


この手の男は良く喋る。


「そうしたらアイツはこう言った。
 『僕の名前は・・・です』と。
 何て名乗ったのかは忘れてしまったよ。
 ひどく興奮してしまってね、気が付いたらブスリ、だ。
 伯爵、彼は貴方に与えられた名前ではなく
 最期に自分の名前を呟いた。これが・・・っ!」


彼が自分の言葉を飲み込むのと私が杖を鳴らすタイミングは同時だった。


「そんなに執着があるなら持ち帰るか?
 夜の森は危険が多い。特に血の匂いは危険を呼び寄せる。
 君が構わないなら特別に譲るが・・・どうかね?」


その時見せた彼の顔が、私にはひどく不快なものに見えた。











壊れたものなら、直せばいい。
代えが利くものなら、代えてしまえばいい。

ただ、壊れてしまったまま直らないものもある。
代えが利かないものもある。


燭台の近くの窓が白く曇る。
・・・今夜も冷えそうだ。
さぁ、部屋へ戻ろう、アンネローゼ・・・。
 
: 2016.01.04 Monday : comments(0) : 伯爵 ヘクトール・アマンドゥス・ウェイスェンフェルト :
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